【あの人94】I君 彼は自分がいつも行っていた喫茶店に来る常連のお客さんだった。 中学、高校を旧花泉町で通っていた。 知り合ったころはお互いに高校は卒業していた年であった。 ちょっと怖そうな感じではあったが、話しをすると同級生だと分かった。 自分よりも、弟との方が仲が良かったかも。 当時は近くのデパートで働いていたから、お昼の休憩時間には上司や同僚と来ることが多かった。 二十歳を過ぎたある春の日に彼から「アパートを借りるから付き合って欲しい」と言われた。 門構えの立派な家の農家が大家さんで、近くの何棟かのアパートを経営していた。 部屋を見せられたことは覚えているが、どんな部屋だったかは覚えていない。 そこに住んでいる時にも行ったことは無かった。 職場で何があったのかは分からないけど、転職をするということになった。 話しを聞くと、プラスチックのパーツにロゴなどを印刷する会社だということだった。 担当は印刷の手前の製版だったので、当時の自分と同じ職種なんだなぁと思った。 その後、彼は独立してその職場から仕事をもらって商売をしていたようである。 それがどのぐらい続いたか分からないけど、次は自分のあだ名を店名にしたスナックを開いた。 もちろん自分の店ではなく雇われマスターと言う形でである。 その当時は、ある程度羽振りが良かったのか、オールディーズに出てくるようなアメ車に乗っていた。 一度だけ、いつも行く喫茶店のマスターと飲みに行ったことがあるが、店の中までは覚えていないし、ましてや可愛い女の子達がいたかどうかも覚えているはずがない。 その後どうなったのか、喫茶店には来ることも無くなり、彼の噂も聞かなくなった。 彼が任された店も無くなってしまっていたので、そのころには一関からいなくなってしまったのかも知れない。 ちょっといい男だったから、彼に惚れた女も一杯いたんじゃないかなぁと今になって思う。 今はどこでどうしてるかなぁ。 |