【あの人60】M・T君 小学校5年の、多分、俺が入院した年に転校してきた、男子である。 俺は小学校5年の時は、4月の始業式前から12月の冬休みまで、仙台の西多賀の病院に入院していた。 そこの事は、なんだかサイトでも書いたが、病室に学校の先生が来て、普通の小学校のように勉強ができるところである。 退院したのはベッドスクールの終業式の日、前にいた山目小学校の5年生として戻ったのは、お正月明けである。 当然5年生の転校生として山小には戻ってきたが、ほとんどの児童は昔からの友達である。 しかしながら、その中には何人か、俺が西多賀に入院している間に転校してきた児童もいた。 M・T君も多分そうだろう。 山目小学校の春の始業式には出ていないので、その時に転校生がいたかどうかは分からない。 その山小の5年生は掃除当番として、1年生の教室も掃除する班があった。 彼と俺は班が一緒なので、当然一緒に1年生の教室を掃除することになる。 そして、その掃除先のクラスには彼の弟が在席していた。 年頃の男子にとっては弟や妹はなぜかくすぐったい存在なのだ。 そういう理由からだろうけど、一緒に掃除に行った日に、突然弟を捕まえて柔道の選手のように一本背負いを決めてしまった。 小さな弟は何の抵抗もなく、床に落ちた。 でも、きっと手加減をしていたであろう、弟が着地したのは足からだったので、これといって泣くことも、怪我をすることも無かった。 きっと普段からふざけあって、兄弟で柔道ごっこをしているのであろう。 彼に付いて覚えているのは、たったその1日だけなのである。 他にも一緒に遊んだりしたはずなのだが、他の事は覚えていない。 そんな5年生も、やがてそのまま6年生になった。 けれど、彼は同じ教室にはいなかった。転校して行ったのだった。 どこへ転校したのかさえも、俺には分からなかった。 そういえば、山小に戻ってきて数ヶ月して、あの「浅間山荘事件」が起ったのである。 |