【あの人24】M・S君 中学の2、3年に同じクラスになった小学校の時からの同級生である。 彼は子供の頃に脳性麻痺を患ったことがあるらしく、少し聞き取りづらい程度の言語障害と軽い右半身の麻痺を持っていた。 それゆえにその時のクラスの皆は彼から大切な事を教えられた。皆は言語障害や半身麻痺は多少訛りが強いとか多少歩き方に癖がある程度にしか感じていなかったのではないか。少なくても、ありがちな差別的な意識で彼と接していたという連中はクラスの中にはいなかった。 彼はよく皆とお昼休みに野球やドッジボールをした。それはお世辞にもうまいとは言えないのだけど、彼は彼なりに楽しんでやっていたし、皆も多少は手を抜きながらも面白くやっていた。 けどこれには困ったことが(本当は彼とのクラスの皆との間柄を一層深くする要因なのだが・・・)あった。それはお昼休みに思い切り体を動かすと、必ずと言っていいほどに午後の授業中に痙攣を起こして倒れてしまうのである。時には口から泡を吹いて、時には失禁してしまうほどの痙攣である。 最初にそれが起きた時は何事が起こったのか当惑してしまっけれど、何度か経験するうちに段々とルールが出来上がってしまった。彼が昼時間に思い切り暴れて遊んだ時は、午後の授業が始まったらいつ彼が倒れても大丈夫なように回りのものは心の準備をしておくのである。 そして自然とそれぞれ担当が決まっていった。後ろの席のものは彼が床に頭をぶつけないように受け止め、保健室の先生を呼びに行くもの、雑巾で汚れた床を拭くもの、舌を噛まないように口にタオルを入れるもの・・・。 同窓会の時に彼に近況を聞いたら、仙台で印刷屋に勤めているという。まだその印刷屋が順調に経営を続けているのなら、きっと彼も元気で冗談を言いながら仕事をしているだろう。 |