【あの人23】H・Sさん 言ってみれば俺の仕事の師匠である。 今の会社には元々製版部門の採用であった。製版というのは印刷の前工程で細かい手作業と先を見越す力、計画性が要求される部門である。 確かに彼はあまりマメに仕事をしたという印象はなかったし、上からもそう言う具合に思われていたかもしれない。しかし難度が高く高度な技術を要求されるような仕事が入ってくると、それまでのグウタラした感じから一変してその難しいと思われる仕事をやりこなしてしまう。 まるでスーパーマンの様な具合である。(笑) 俺なんかどうやっていいのか途方に暮れるような仕事でも、彼には仕上がりが見えていたようだし、その手順までも頭の中に描いていたようだった。 腕にはそれ相応の自信を持っていたし、回りもそう言う目で見ていた。事実、それだけの仕事もしてきたのである。 彼が会社を辞めてからずいぶんと経ってしまった。その後一度もあう機会は無いままである。 辞める経緯の詳しいことは知らないが、あまりいい形ではなく辞めていったということは耳に入ってきた。 今は噂ではトラックの運転手をしているとか、大きめのバスのレンタカーの運転手をしているとか。 |