by simple-hama
【あの人は今・・・】


【あの人6】・・・・・・

あるお婆さんとそのお孫さんの女の子のことである。
初めて社会人になり仕事にもなれてきた頃、工期が3ヶ月もある現場の検査を会社から任された。
その現場は宮城県内を通る東北自動車道のインターチェンジ近くにあり、ほぼ毎日のように高速道路を使い現場まで通っていた。
インターチェンジを降り現場までの田舎道に小さな食料品店兼雑貨屋があった。今で言うコンビニのようなものだが、店自体は古くから商売をやっていたようで、決して立派できれいとは言えなかったのだが・・・。
普段なら現場まで直行するところなのだが、その日・・・つまりお婆さんと女の子に会った日は仕事開始時間までいくらか余裕があったので、その店でアイスクリームを買おうと仲間数人で店に入っていった。
それぞり好きなアイスクリームを手に取り代金を払おうとしていたとき、中から女の子が出てきた。笑顔がかわいい女の子でみんなとわいわい話をしたりした。それから時々昼食を食べてきた後や仕事がえりにその店に寄るようになっていた。
仕事仲間は・・・もちろん俺も含めて彼女と話ができることうれしかったのだが、店に通うようになって1ヶ月位過ぎたある日に彼女が庭先に洗濯物を干している姿をみて、仲間全員がなんとなく彼女の異変に気が付いた。・・・・お腹が大きくなっているような気がしたのである。
そっとお婆さんに聞いてみると、もうすぐ結婚することになってるらしいのだ。俺たちはお婆さんに「おめでとう」と言って現場に向かった。
それから時間が過ぎ通いつめた現場が終了することになった。
現場の最後の後片付けをして会社に帰る途中に、あの店に顔を出してみた。
いつのまにか彼女は結婚していて姿はあらわさなかったが、相変わらずお婆さんがにこやかな顔で迎えてくれた。
現場が終了してもうこの店にも来れないということを告げると、お婆さんは「元気でやりなさいよ」と目を涙でうるませていた。
 通っていた現場は大きな工事のほんの一工区にすぎず、実は仙台に向かって延々と続く工事だったのである。
1年と半年を過ぎた頃に、入札で落札した工事はあの現場の近くの工区だった。
近くといっても山をひとつ越えるような所だったのだが、現場の空き時間に通い詰めた仲間を連れてあの店に訪れてみた。
相変わらずお婆さんは店の奥からにこやかに俺たちを迎えてくれ、いっつも買っていたアイスクリームを冷蔵庫からだしてきてサービスしてくれた。
あれからずいぶんと時間がたってしまったが、あのお婆さんは健在なのだろうか?
女の子や産まれた子供はどうしてるのだろうか?


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